H2Koi 錦鯉池の水質ガイド ホームへ

水質ガイド

水温と錦鯉の一年

水温は、池で測る項目のひとつではありません。ほかのすべてを動かしている親変数です。鯉の代謝も、食欲も、免疫の立ち上がりも、そして水がそもそも何 mg/L の酸素を保持できるかも、水温が決めています。錦鯉は変温動物ですから、体温は水温そのものです。一年を通じた飼育管理は、突き詰めれば水温の読み方に集約されます。

要点

なぜ水温が親変数なのか

錦鯉は変温動物です。体温は水温に追随し、代謝速度も水温で決まります。水温が上がれば酸素消費も餌の要求量も増え、下がれば消化酵素の働きが落ち、免疫を担う細胞の反応も鈍くなります。一方で、水が物理的に溶かしこめる酸素の量は、水温が高いほど少なくなります。つまり水温は、鯉の側の需要と水の側の供給を、逆向きに同時に動かしています。

ですから水質の判断は水温から始まります。同じ pH、同じアンモニウム濃度でも、12℃ の池と 28℃ の池ではまったく意味が違います。アンモニアと亜硝酸の毒性の出方も、溶存酸素の余裕も、水温を抜きにしては読めません。ろ過を担う硝化細菌の働きも同じで、低水温では明らかに鈍ります。

水温と給餌 — 一年の組み立て

給餌の判断はカレンダーではなく水温計で行います。同じ十月でも、暖かい秋と冷え込みの早い秋では池の中身が違います。基本の流れは、夏の高水温帯で高タンパクの育成餌をしっかり、秋の下降とともに量と回数を落とし、15℃ 前後で胚芽系など消化のよい低水温用に切り替え、8〜10℃ を下回って安定したら止める、というものです。春はこの逆順を、確実に水温が戻ってからたどります。

水温管理のポイント
27℃ 超量は控えめに、回数を分け、朝のうちに与える代謝は最大、酸素は最少。曝気がしっかり効いているときだけ与える
20〜27℃高タンパクの育成餌。1回を大きくせず、少量を数回に分ける成長にもっとも適した帯。消費も排泄も最大になる
14〜20℃量と回数を減らし、タンパクを落とす秋は「下がる一方」と考えて先回りする
10〜14℃胚芽系など消化のよいものを少量、多くても一日一回消化効率が落ちる帯。食べ残しを池に残さない
8〜10℃止める判断をする帯下がって落ち着いたら餌切り
8℃ 未満与えない冬の管理に切り替える

この区切りは広く使われている目安であって、池ごとの正解ではありません。水深、日照、ろ過の能力、鯉のサイズと状態で前後します。ご自身の池の水温を実際に測り、鯉の反応を見ながら決めてください。

低水温での給餌がなぜ危険か

水温が下がると、消化管の働きは実質的に止まります。それでも鯉は差し出された餌を口にします。消化されない餌が腸内に残れば腐敗し、腸炎の引き金になります。冬を越したはずの鯉が春先に落ちる例の一部は、ここに原因があります。迷ったら与えないほうが安全です。健康な鯉は、低水温期に数週間食べなくても問題なく越します。

春の危険な時期 — ずれて動く二つの時計

このページで最も実用的なのはここです。

春に水温が上がっていくとき、二つの時計が別々の速さで動き始めます。ひとつは細菌と寄生虫の時計。もうひとつは鯉の免疫の時計。前者のほうが、低い水温で先に動き出します。結果として、病原体はすでに活動しているのに鯉の防御はまだ立ち上がっていない、という期間が毎年必ず生まれます。春に死亡が集中するのは、この重なりのためです。

この時期には、条件がいくつも同時に悪くなります。冬の間に体力を落とした鯉が、まだ回復しきっていません。ろ過細菌の立ち上がりも鯉の食欲より遅れるため、給餌を戻すのが早すぎるとアンモニアと亜硝酸が出ます。炭酸塩硬度(KH)は冬の間に消費されて薄くなっていることが多く、緩衝が効かない水ではpH暴落が起こりやすくなります。どれも単独なら耐えられても、免疫が戻っていない鯉には重なります。

春の急な暖気は、良い知らせではありません

数日続く暖かさで水温が跳ね上がり、そのあと寒気で戻る、という動きが春先の典型です。この上下は病原体側にとっては活動開始の合図になり、鯉側にとっては負荷にしかなりません。一度暖かい日があったからといって通常餌に戻さないでください。給餌の再開は、水温が戻ったうえで数日安定してから、少量で始めます。この時期は毎日の観察を増やし、鯉の泳ぎ方、鰭の様子、体表の変化を見てください。

夏 — 高水温は酸素が少ない

夏の問題は単純です。鯉の酸素要求が最大になる時期に、水は最も酸素を保持できません。次の表は淡水・大気圧下での飽和量の目安です。

水温飽和溶存酸素(mg/L)意味
5℃約 12.8需要が小さく供給に余裕がある
10℃約 11.3まだ十分な余裕
15℃約 10.1代謝が上がり始める
20℃約 9.1需要と供給が均衡する帯
25℃約 8.3需要が上回り始める
30℃約 7.6上限が低く、夜間に余裕が消える

これは飽和値、つまり上限であって、池の実測値ではありません。日中は藻類の光合成で一時的に過飽和になることもありますが、夜間は同じ藻類が酸素を消費します。池の溶存酸素が最も低くなるのは日の出直前、人が池を見に行かない時刻です。詳しくは溶存酸素のページで扱っています。

夏の典型的な事故

猛暑、しっかりした給餌、濃いアオコ。この三つが重なった翌朝に見つかる、という形が最も多い型です。夜間に藻類が酸素を消費し、高い水温は再溶解を助けません。前日の日中はまったく異常に見えないため、夕方の観察は判断材料になりません。曝気は日中よりむしろ夜半から明け方にこそ必要です。朝だけ鼻上げが出るなら、すでにその帯に入っていると考えてください。

冬 — 触らない、割らない、塞がない

冬の管理は「何をするか」より「何をしないか」で決まります。鯉は休眠状態にあり、代謝も反応も落ちています。この時期の作業は、ほとんどが鯉にとって負担にしかなりません。

氷を割らないでください

凍った水面を叩くと、その衝撃は水中をそのまま伝わります。低水温で反応も回復力も落ちている鯉にとって、これは無視できない打撃です。開口部が必要なら、湯を入れた金属容器を氷の上に置くなど、融かして開ける方法をとってください。同時に、発泡材やシートで水面を完全に密閉するのも避けてください。アンモニアや二酸化炭素の逃げ場がなくなります。覆うのであれば、必ずどこかを開けておきます。

絶対値より「変化の速さ」

「水温 18℃」という数字だけでは足りません。一週間かけて 18℃ まで下がったのか、昨日 24℃ だったのかで、鯉にかかる負荷はまったく違います。変温動物にとって水温の急変は、代謝の設定を一気に書き換えられることと同じです。

温度差の主な発生源は換水です。夏に冷たい水道水を一気に入れる、というのはよくある失敗で、水質としては何も間違っていないのに鯉を崩します。一度に大量を入れず、時間をかけて置き換えるのが原則です。換水の量と頻度の考え方は水換えのページにまとめています。換水時の水温差は 1℃ 程度以内を目安とする例が多いのですが、これも一律の基準ではありませんので、注水前後の水温を実際に測って確かめてください。

当社は、この考え方を前提にした自動換水システムを池ごとに製作しています。設定した割合を一気にではなく継続的に置き換えるため、水温にも水質にも段差ができません。これと同じことをするシステムを私たちは見つけられておらず、お客様も同様です。

季節水温の動き主なリスク併せて見る項目
上昇。日較差が大きく、戻りもある病原体の先行、給餌の戻しすぎアンモニア、亜硝酸、KH
高値で安定。夜間もあまり下がらない夜明け前の酸欠、過給餌溶存酸素、アンモニア、濁度
下降。冷え込みが不規則消化不良、餌の切り替え遅れ水温、濁度
低位で安定。表面が凍ることも撹拌と衝撃、過冷却、密閉水温、溶存酸素

水温について、H2Koi が見ているもの

H2Koi のゾンデは水温を直接測定します。計算による推定ではなく実測です。同じ機体で pH、溶存酸素(mg/L と飽和率)、導電率、濁度、アンモニウム(NH4)、硝酸(NO3)も産業用グレードのセンサーで直接測定し、そこから KH(0〜20 dKH)、NH3、亜硝酸、塩分、TDS を算出します。ORP はオプションです。GH は報告しません。センサー面はセルフクリーニングのワイパーで維持されるため、藻の付着で値がずれていく心配がありません。

この項目について、できること・できないこと

できること

できないこと

ときどき測るだけでは足りない理由

池に水温計は入っているはずですし、毎日見ている方も多いでしょう。それでも足りない理由は二つあります。

ひとつは、見る時刻が偏っていることです。人が池を見るのは朝の給餌時か、仕事から帰ったあとです。夏の溶存酸素の最低値は日の出直前で、その時刻の値は誰も見ていません。春の暖気も同じで、日中の最高水温は測れても、夜間にどこまで戻ったかは残りません。点で読んだ値は、その日の最低でも最高でもない、たまたまの一点です。

もうひとつは、点からは速さが読めないことです。今日 18℃、来週も 18℃ という記録は、その間に 24℃ まで跳ねて戻ったことを隠します。鯉に効くのはその跳ね返りのほうです。春の暖気は数日で来て数日で去るため、週に一度の確認では、危険な期間がまるごと二回の測定の間に収まってしまいます。

連続測定が変えるのは解像度です。同じ水温計でも、一日に二回読むのと十分ごとに記録するのとでは、見えるものがまったく違います。

よくある質問

錦鯉の餌は水温何度でやめればよいですか。

おおむね 8〜10℃ を下回って水温が落ち着いたら、完全に止めます。その手前、15℃ 前後から胚芽系など消化のよい低水温用に切り替え、量と回数を段階的に落としていくのが安全です。数字そのものより、水温が下がる方向にあるかどうかで判断してください。秋は下がる一方と考えて先回りするほうが失敗しません。

春に鯉が死にやすいのはなぜですか。

春の水温上昇に対して、細菌や寄生虫のほうが鯉の免疫よりも低い水温で先に活動を始めるからです。病原体はすでに動いているのに鯉の防御はまだ戻っていない、という期間が毎年生まれます。そこへ、冬で落ちた体力、遅れて立ち上がるろ過、消費されて薄くなった KH が重なります。春先は給餌を急がず、観察の回数を増やしてください。

冬に池が凍りました。氷は割ってもよいですか。

叩き割らないでください。衝撃が水中を伝わり、休眠状態の鯉に直接届きます。ガス交換のための開口部が必要なら、湯を入れた金属容器を氷の上に置くなどして融かして開けます。逆に、水面を発泡材などで完全に密閉するのも避けてください。アンモニアや二酸化炭素の逃げ場がなくなります。開口を確保しつつ、鯉には触れない、というのが冬の原則です。

冬の間まったく餌を与えなくても、痩せてしまいませんか。

健康な鯉であれば問題ありません。低水温では代謝そのものが落ちているため、消費も小さくなります。むしろ危険なのは逆で、消化が止まっている状態で餌を与えることです。消化されない餌が腸内に残って腐敗し、腸炎につながります。冬に備えるのは秋の仕事です。水温が下がりきる前に、しっかり食べさせて体力をつけておいてください。

春の給餌はいつから再開すればよいですか。

水温が 8〜10℃ の帯を安定して超えてからです。一度暖かい日があっただけでは足りません。数日続けて戻っていることを確認したうえで、まず胚芽系など消化のよい低水温用を、ごく少量から始めます。高タンパクの育成餌に戻すのは 15℃ を安定して超えてからが目安です。食べ残しが出るようなら、まだ早いという合図です。

水換えのとき、水温差はどのくらいまで許容できますか。

2〜3℃ 以内を目安とする例が多く、これより大きい差を一度につけないほうが安全です。ただし許容できる幅は、換水の割合、注水の速度、池の水量、鯉の状態によって変わります。同じ 3℃ の差でも、全体の一割をゆっくり入れるのと、半分を一気に入れるのとではまったく違います。注水前に両方の水温を必ず測り、少量ずつ時間をかけて入れてください。

夏の朝だけ鯉が鼻上げします。原因は何ですか。

夜間の酸素消費による酸欠が典型的な原因です。高水温では水が保持できる酸素の上限が低く、そこへ夜間、藻類や細菌が酸素を消費します。最低値は日の出直前で、朝の鼻上げはその名残です。日中に見て問題がなくても安心はできません。曝気を夜半から明け方にかけて強める、給餌を減らす、アオコを抑えるといった対応を検討してください。

水温は、見ていないときにこそ動きます

H2Koi は産業用グレードのセンサーで水温を直接・連続で測定し、夜明け前の最低値と一日のうちの変化の速さを記録します。判断するのは飼育者ですが、その材料を欠かさず用意しておくのが私たちの役割です。

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