水質リファレンス
池の水質表は世の中にいくらでもありますが、そのほとんどが「目標値」で止まっています。実際に鯉を落とすのは、目標値から外れたことそのものではなく、外れるまでの速さです。硝酸塩は数週間かけて上がり、溶存酸素は一晩で下がります。この表では、各項目の目標値に加えて、それがどれだけ速く動きうるのかまで併記しました。手元に置いて使っていただく前提の一枚です。
右端の「変化の速さ」列が、この表の要です。ここを読み違えると、正しい項目を正しくない間隔で測ることになります。
| 項目 | 何を示す値か | 目標値 | 外れているときに起きていること | 変化の速さ |
|---|---|---|---|---|
| 水温 | 池全体の代謝速度と、水が酸素を溶かしこめる上限を決める値 | 適水温18〜24℃。対応範囲はおおむね5〜30℃ | 高すぎれば代謝だけが上がって酸素が足りなくなる。低すぎれば免疫が落ちる。急変そのものが負荷になる | 季節単位。ただし浅い池や小さい池は、晴天や寒波で半日から一日のうちに数℃動く |
| pH | 水の酸性・アルカリ性の度合い。アンモニアの毒性を左右する | 7.0〜8.5。日内変動は0.5以内が理想 | 高いほど、同じアンモニア量でも毒性の強いNH3側に寄る。低い側への急落はKHの枯渇を意味する | 日中と夜間で上下する。KHが尽きた池では数時間で暴落する |
| KH(炭酸塩硬度) | pHを支える緩衝力の残量 | 6〜10 dKH(105〜180 ppm) | 5 dKH未満で不安定。3 dKH未満はpH暴落が現実に起こる領域 | 数週間かけてじわじわ消費される。残量が少ない状態からの最後のひと押しは速い |
| GH(総硬度) | カルシウム・マグネシウムなどミネラルの総量 | 水源しだい。緩衝力の指標ではない | 極端に低ければ浸透圧調節の負担になりうるが、pHの安定とは別の話 | ほとんど動かない。月単位 |
| アンモニア(NH3) | ろ過が追いついていない量のうち、えらを直接傷める側 | 0 mg/L | 検出された時点で、ろ過・給餌量・収容量のどれかが破綻している | 数時間。pHと水温が上がるだけで、総アンモニアが同じでもNH3は増える |
| アンモニウム(NH4) | 総アンモニアのうち毒性の低い側。NH3を求める元になる値 | 低いほどよい(NH3算出の基礎値) | 高ければ総アンモニアが高い。pHと水温しだいでNH3側へ転じる | アンモニアと同じ |
| 亜硝酸(NO2) | 硝化の二段目が追いついていない量 | 0 mg/L | 血液の酸素運搬を妨げる。急性毒性がある | 一日から数日。立ち上げ期やろ材を洗った直後に跳ね上がる |
| 硝酸塩(NO3) | 系にたまった負荷の総量 | 一律の危険域は置きにくい。低く保てるほどよい | ただちに効く毒ではないが、上がり続けている事実が換水量・給餌量・収容量の見直しを促すサイン | 数週間かけて蓄積する。急変しない |
| 溶存酸素(DO) | 実際に水に溶けている酸素量 | 8〜10 mg/Lが快適域。7 mg/Lが下限 | 6 mg/L未満でストレス、4 mg/L未満は急性の危険 | 数時間。夜間から夜明け前にかけて最低値をとる |
| 塩分濃度 | 治療目的で意図的に入れた塩の管理値 | 平常時は加えない。使う場合は0.3〜0.5%程度を目安に、指示に従う | いま何%なのか読めていない状態での追い塩が、いちばん危険な操作になる | 投入時に人為的に動く。以後は換水と降雨でゆっくり薄まる |
| ORP(酸化還元電位) | 水が酸化的か還元的かの傾向 | 池ごとに定常値が異なる。絶対値ではなく傾きを見る | 平常値から下向きに離れていくときは、有機物負荷の増加やろ過の不調を疑う | 数時間から数日 |
| 濁度 | 濁りの度合い | 平常値からの変化を見る | 急な上昇は、藻類の崩壊、底の巻き上げ、ろ過の破過などの前触れであることが多い | 数時間から数日 |
単位の換算について。KHはdKH(ドイツ硬度)とppm(CaCO3換算)の両方で表記されます。1 dKHはおよそ17.8 ppmです。テストキットによってどちらで表示されるかが違うため、同じ池の値を比べるときは単位をそろえてください。
錦鯉はおおむね5〜30℃の範囲に対応し、最も活性が高いのは18〜24℃です。13℃を下回ると摂餌は目に見えて落ち、10℃以下では給餌を止めるのが一般的な管理です。ただし水温をこの表の一項目として扱うと、本質を見落とします。水温はほかのすべての値の背景条件です。
水は温かいほど酸素を溶かしこめません。同時に、鯉の代謝もろ過バクテリアの活動も水温とともに上がります。つまり高水温期には、酸素の供給上限が下がるのと同じタイミングで需要が上がるという、二重の圧力がかかります。
| 水温 | 飽和溶存酸素量の目安 | 意味合い |
|---|---|---|
| 5℃ | 約12.8 mg/L | 余裕がある。鯉の需要も小さい |
| 15℃ | 約10.1 mg/L | 快適域を保ちやすい |
| 20℃ | 約9.1 mg/L | 飽和していても快適域の上限に届く程度 |
| 25℃ | 約8.3 mg/L | 飽和で8 mg/L台。実際の池はこれを下回る |
| 30℃ | 約7.6 mg/L | 飽和していても下限の7 mg/Lに近い。余裕がない |
| 35℃ | 約7.0 mg/L | 理論上の上限が、そのまま下限と重なる |
この表を一度見ておくと、夏の管理の考え方が変わります。30℃の池では、完全に飽和していてもなお7 mg/L台です。そこから夜間の呼吸と有機物の分解で消費されれば、6 mg/Lを割るのは特別なことではありません。溶存酸素の考え方は季節によって別物になります。
pHは7.0〜8.5であれば許容範囲です。7.4の池と8.2の池のどちらが優れているかという議論には、あまり意味がありません。問題になるのは幅です。一日のうちにpHが8.6から7.2まで振れる池は、平均値だけ見れば健全に見えますが、鯉にとっては毎日その振れ幅を浴びていることになります。
そして、その振れ幅を決めているのがKHです。KHは水がどれだけの酸を吸収できるかという緩衝力の残量であり、pHの安定を裏側から支えています。KHが十分にある池では、光合成による日中の上昇も、夜間のCO2蓄積による低下も、緩やかな範囲に収まります。
KHは6〜10 dKH(105〜180 ppm)が最適域です。5 dKHを下回ると日内変動が大きくなりはじめ、3 dKHを下回ると緩衝力がほとんど残っていない状態になります。詳しくはKH(炭酸塩硬度)の解説を参照してください。
KHの枯渇が恐ろしいのは、直前まで何の兆候も出ないからです。KHが4 dKH、3 dKHと落ちていく間、pHは正常値のまま推移します。緩衝力が仕事をしているからです。そして残量が尽きた夜、pHは一気に落ちます。これがpH暴落です。pHだけを週一回測っている池では、暴落したあとの数値を見ることになります。KHを測っていない池は、いつ落ちるか分からない状態を、正常だと思って眺めていることになります。
ここは混同がとても多い箇所なので、はっきり書きます。GH(総硬度)はカルシウムやマグネシウムなどミネラルの総量を示す値であり、pHを支える緩衝力の指標ではありません。GHが高い池でもKHが枯れていればpHは暴落しますし、その逆もあります。「硬度は十分だから大丈夫」という判断は、どちらの硬度を見ているかで意味がまったく変わります。pHの安定を見るならKH、ミネラルの過不足を見るならGHです。
アンモニアと亜硝酸の目標値は、どちらも0 mg/Lです。許容値ではなく0である、という点が重要です。検出されている時点で、ろ過が処理しきれていない何かが起きています。
アンモニアの厄介さは、同じ量でも危険度が変わるところにあります。水中の総アンモニアは、毒性の低いアンモニウムイオン(NH4+)と、えらを直接傷める遊離アンモニア(NH3)に分かれて存在しており、その比率をpHと水温が決めています。pHが上がるほど、水温が上がるほど、NH3側の割合が増えます。総アンモニアの数値が昨日と同じでも、夏の午後にpHが上がった数時間だけ、実質的な毒性が跳ね上がるということが起こります。NH3とNH4を分けて扱う理由はここにあります。
亜硝酸は、硝化の二段目が追いついていないときに現れます。血液の酸素運搬能力を阻害するため、水中の溶存酸素が十分にあっても、鯉は酸欠に近い状態に置かれます。立ち上げ期のほか、ろ材を洗いすぎた直後、投薬でバクテリアを傷めた直後にも出ます。
硝酸塩は硝化の最終産物で、急性毒性という意味では前二者とは別物です。ただし、たまり続けているという事実そのものが、換水量・給餌量・収容量のどこかが釣り合っていないことを示します。負荷計としての価値のある値です。
亜硝酸が検出されている池では、エアレーションを増やしても鯉の呼吸は楽になりません。水に酸素があっても、それを運ぶ血液の側が働けないためです。亜硝酸の検出は、酸素の問題ではなくろ過の問題として扱ってください。
8〜10 mg/Lが快適域、7 mg/Lが下限、6 mg/L未満でストレス、4 mg/L未満は急性の危険です。この表のなかで、数時間のうちに致命的な領域まで動きうる項目は溶存酸素だけです。
溶存酸素には明確な日内リズムがあります。日中は藻類や水草の光合成で酸素が供給され、夜間はそれが止まったうえで、鯉も植物も微生物もすべてが酸素を消費します。したがって最低値は必ず夜明け前に出ます。日中に測ったDOが9 mg/Lだったからといって、その池が一晩を通して9 mg/Lだったことにはなりません。
夏の高水温期に、日中の測定値だけを見て安心するのが、最も危険な運用です。30℃の池では飽和していても7 mg/L台であり、そこから夜間の消費が乗ります。鯉が朝方に水面で口を動かしているのを見て気づいたときには、すでに数時間その状態が続いています。
塩分濃度は、平常時に管理する値ではありません。治療目的で塩を用いる場合の管理値です。一般には0.3〜0.5%程度が目安とされますが、濃度の管理でいちばん事故が多いのは、いま何%入っているのかを把握しないまま追い塩をしてしまう場面です。換水や降雨で薄まっているつもりで足したら、実際には薄まっていなかった、という失敗が繰り返し起きています。塩を使う判断そのものは、獣医師や信頼できる専門店の指示に従ってください。
ORP(酸化還元電位)は、水が酸化的か還元的かの傾向を示す値です。清浄でよく曝気された水は高く、有機物がたまって嫌気的になった水は低くなります。ただし絶対値には池ごとの個性が大きく、他人の池の数値と比べても意味がありません。見るべきは、その池自身の平常値からどちらへ動いているかという傾きです。
濁度も同じ扱いです。何NTUが正常かという問いに一般解はありませんが、いつもと違う濁り方をしたという事実には十分な情報があります。グリーンウォーターの崩壊、底の巻き上げ、ろ過の破過は、いずれも濁度の急変として先に現れることがあります。
正直に書きます。安定して数年経った池を、毎日フルセットで検査する必要はありません。負担が続かない検査計画は、結局やらなくなるので意味がありません。一方で、状況が変われば安全な間隔は劇的に短くなります。
| 場面 | 間隔の目安 | 重点的に見る項目 |
|---|---|---|
| 安定して一年以上経った池(平常時) | 週1回 | pH、KH、アンモニア、亜硝酸。硝酸塩とGHは月1回で足りる |
| 新設・立ち上げ中の池 | 毎日 | アンモニア、亜硝酸、pH |
| 鯉を追加導入したあと | 2週間は毎日 | アンモニア、亜硝酸 |
| 給餌量を増やしたとき | 数日は毎日 | アンモニア、亜硝酸、溶存酸素 |
| 水温が24℃を超える時期 | 1日2回(夕方と夜明け前) | 溶存酸素、水温、pH |
| 大雨・雷雨・台風のあと | 当日と翌日 | pH、KH、濁度、溶存酸素 |
| 投薬中および投薬直後 | 毎日、可能なら朝夕 | 溶存酸素、アンモニア、pH |
| ろ材を洗ったあと | 3〜5日は毎日 | アンモニア、亜硝酸 |
| 換水・補水の水源が変わったとき | その都度 | KH、GH、pH、水温 |
この表で押さえていただきたいのは、右上と左下の落差です。平常時の週1回と、高水温期の1日2回。同じ池、同じ鯉でありながら、安全な間隔が十数倍違います。そして、どちらの状態にあるかは池が教えてくれません。
週に一度、日曜の午前に検査をしている池を考えます。一年は8760時間ありますが、そのうち実際に数値を見ているのは52回、合計しても数時間です。残りの時間、池がどうなっていたかは記録に残りません。
問題は、その隙間が均等ではないことです。溶存酸素の最低値は必ず夜明け前に出ますが、人が検査をするのはほぼ確実に日中です。つまり、いちばん危険な時間帯だけが構造的に測定から漏れます。pH暴落も夜間に起きることが多く、翌朝には水質が落ち着いて見えることすらあります。
週一回の検査が悪いのではありません。週一回の検査で分かるのは、週単位で動く項目だけだ、ということです。硝酸塩やGHはそれで十分です。溶存酸素とアンモニアは、それでは足りません。この二つを同じ頻度で扱っていることが、多くの池に共通する構造的な穴です。
H2Koiが何をして、何をしないのかを、はっきり書いておきます。
H2Koiは産業用グレードのセンサーで池のパラメータを連続的に測り、平常から離れはじめた時点で早期に知らせる装置です。直接測定しているのは、水温、pH、溶存酸素(mg/Lと飽和度%)、電気伝導率、濁度、アンモニウム(NH4)、硝酸塩(NO3)です。ORPはオプションです。同じくオプションで、藍藻のフィコシアニン蛍光を読むチャンネルも選べます。これは藍藻性のブルームが立ち上がりつつあることの早期警告で、細胞数の計測でも、毒素の測定でもありません。KH(0〜20 dKH)、NH3、亜硝酸、塩分濃度、TDSは、これらの実測値から算出しています。KHは滴定ではなく演算値です。GHは報告項目に含まれていません。センサー面は自動清掃ワイパーで清浄に保たれます。
それぞれの値に適したセンサーを選び、正しく校正した状態で24時間読み続ける——H2Koiの精度とはそういうものです。一方で、病気や寄生虫を検出することはできませんし、何かを未然に防ぐ装置でもありません。できるのは、変化が起きていることを、人が気づくより早くお伝えすることだけです。
あわせて、池ごとに設計する自動換水システムも手がけています。同じことを行うシステムを、私たちも、お客様も、これまで見つけられていません。
7.0〜8.5であれば許容範囲で、この中のどこにあるかを気にする必要はほとんどありません。それよりも、一日のうちの振れ幅を0.5以内に収めることを目標にしてください。数値の位置ではなく安定度が効きます。
6〜10 dKH(105〜180 ppm)が最適域です。5 dKHを下回ると日内変動が大きくなり、3 dKHを下回ると緩衝力がほぼ残っていない状態になります。この領域ではpHが正常値のまま推移していても、ある夜に一気に落ちることがあります。
GH(総硬度)はカルシウムやマグネシウムなどミネラルの量、KH(炭酸塩硬度)はpHを支える緩衝力の残量です。まったく別の値です。pHの安定を見るならKHを測ってください。GHが高いことは、pHが安定することの保証にはなりません。
まず、立ち上げ途中の池であれば給餌を絞り、硝化が確立するまで毎日測ります。安定していたはずの池で出はじめた場合は、給餌量が増えていないか、鯉を追加していないか、ろ材を洗いすぎていないか、投薬でバクテリアを傷めていないかを順に確認してください。あわせて、pHと水温が上がる時間帯には、同じ総アンモニアでも毒性の高いNH3の割合が増えることも頭に入れておいてください。
亜硝酸には急性毒性があるため、濃度を下げる方向の対応は理にかないます。ただし換水は対症であって原因ではありません。硝化の二段目が追いついていない理由を並行して探してください。なお、エアレーションを増やしても亜硝酸による症状は改善しません。酸素はあっても、血液の側が運べなくなっているためです。
その可能性が高い挙動です。溶存酸素の最低値は夜明け前に出るため、時間帯とも合致します。ただし亜硝酸中毒でも同じ見え方になるので、溶存酸素と亜硝酸の両方を確認してください。いずれにせよ、その挙動が見えた時点で、すでに数時間その状態が続いています。
安定した池の平常時であれば、週1回でpH、KH、アンモニア、亜硝酸。硝酸塩とGHは月1回で足ります。ただし、鯉の追加導入後、給餌量を増やしたあと、水温が30℃に迫る時期、大雨や雷雨のあと、投薬中は、間隔を毎日あるいは1日2回まで詰めてください。安全な間隔は池の状態で十数倍変わります。
H2Koiは池のパラメータを連続して測り、平常から離れはじめた時点でお知らせします。産業用グレードのセンサーで、誰も見ていない時間帯を埋めるための装置です。
H2Koiについて