水質ガイド
錦鯉の池で急を要する水質トラブルは、そのほとんどがアンモニアか亜硝酸、あるいは両方です。立ち上げたばかりの池、ろ材を洗いすぎた池、薬を使った直後の池では、水は澄んだまま数値だけが上がっていきます。そして「アンモニア 0.5 mg/L」という数字ひとつでは、危険なのか許容範囲なのかを判断できません。同じ濃度でも、pHと水温しだいで毒性は数十倍変わります。このページで最もお伝えしたいのは、そこです。
鯉は窒素をアンモニアとして、主にエラから直接水中に排出します。糞や食べ残し、枯れた植物、死んだ魚も分解の過程でアンモニアを出します。つまりアンモニアは「異常が起きたときに発生するもの」ではなく、飼っている以上つねに発生し続けているものです。
これを片付けているのがろ過槽のバクテリアです。アンモニア酸化菌がアンモニアを亜硝酸に変え、亜硝酸酸化菌が亜硝酸を硝酸に変えます。硝酸まで来れば毒性は大きく下がり、あとは換水で薄めれば済みます。問題は、この二段階のどちらか、あるいは両方が追いついていないときです。処理能力を超えた分は、そのまま池の水に溜まります。
この硝化の反応は炭酸塩硬度を消費します。ろ過が活発に回っているほど KH は減っていき、KH が尽きた池は pH を支えられなくなってpH暴落を起こします。アンモニアの管理と KH(炭酸塩硬度)の管理は、別々の話ではなく同じ一本の話です。
市販の試薬が読んでいるのは、ほとんどの場合「総アンモニア」です。これは水中で二つの形に分かれています。
両者の比率を決めているのが pH と水温です。pH が 1 上がるとおおよそ 10 倍近く NH3 側に傾き、水温が上がってもさらに傾きます。実際の割合は次のとおりです。
| pH | 15℃ | 20℃ | 25℃ | 28℃ |
|---|---|---|---|---|
| 7.0 | 0.27% | 0.39% | 0.56% | 0.70% |
| 7.5 | 0.86% | 1.2% | 1.8% | 2.2% |
| 8.0 | 2.7% | 3.8% | 5.4% | 6.5% |
| 8.5 | 7.9% | 11% | 15% | 18% |
総アンモニアが同じ 1.0 mg/L だったとします。pH 7.0・水温 15℃ の池では遊離アンモニアは約 0.003 mg/L で、ほぼ無視できます。同じ 1.0 mg/L が pH 8.5・水温 28℃ の池では約 0.18 mg/L、鰓の障害域に入ります。数字はまったく同じで、60 倍以上の差です。
ですから、アンモニアの値を記録するときは必ず pH と水温を並べて残してください。この三つが揃って初めて意味のあるデータになります。逆に言えば、pH と水温を伴わないアンモニアの数値は、良い知らせにも悪い知らせにもなりません。
アンモニアが出ている最中に、pH を上げる操作を急に行わないでください。KH の調整や苦土石灰の投入で pH が 7.5 から 8.5 まで動けば、総アンモニアが 1 mg/L も減っていなくても、遊離アンモニアは一気に数倍になります。同じ理由で、夏場の午後、光合成で pH が上がりきる時間帯は最も危険です。KH の立て直しが必要なら、アンモニアが落ち着いてから、少量ずつ日をまたいで行ってください。
亜硝酸はアンモニアと性質が違い、pH による毒性の変化がほとんどありません。pH が低い池だから安心ということはなく、酸性寄りの池ではむしろ亜硝酸のほうを警戒します。
亜硝酸はエラから吸収され、血液中のヘモグロビンと結合して、酸素を運べない形(メトヘモグロビン)に変えてしまいます。血液が褐色を帯びるため褐色血液症、英語では brown blood と呼ばれます。水中の溶存酸素が十分でも、魚の側が酸素を運べないため、鼻上げや水面付近での停滞、エラの動きが速くなる、餌を食べないといった、酸欠と見分けのつかない症状が出ます。エアレーションを足しても改善しない鼻上げを見たら、亜硝酸を疑ってください。
塩に含まれる塩化物イオンは、エラで亜硝酸と競合し、体内への取り込みを妨げます。ろ過が回復するまでの時間を稼ぐ手段として、日本の池でも古くから使われている確立した方法です。一般的な保護濃度は 0.1%(水1トンあたり約1 kg)です。池の実容量から計算し、バケツの池水に完全に溶かしてから、数時間かけて少しずつ入れます。
塩の扱いには注意点があります。塩は蒸発では減りません。抜けるのは換水のときだけなので、追加投入を重ねると濃度が読めなくなります。必ず池の実容量から必要量を計算し、投入した量を記録してください。また、塩そのものがろ過バクテリアの働きを抑えることがあり、薬との併用でさらに負荷がかかります。亜硝酸が出ているときの塩は「ろ過が戻るまでの保護」であって、原因の解決ではありません。
池ごとに水質も鯉のサイズも違うため、下表はあくまで判断の出発点です。数値そのものより、前回からどちらへ動いているかのほうが重要な場面も多くあります。
| 項目 | 目標 | 注意 | 危険 |
|---|---|---|---|
| 遊離アンモニア NH3 | 0.02 mg/L 未満 | 0.02 - 0.05 mg/L | 0.05 mg/L 超 |
| 総アンモニア(NH4+ と NH3 の合計) | 検出せず | 0.25 mg/L から | pH・水温しだい |
| 亜硝酸 NO2 | 0 | 0.1 mg/L から | 0.3 mg/L 超 |
| 硝酸 NO3 | 50 mg/L 未満 | 50 - 100 mg/L | 100 mg/L 超 |
| KH(炭酸塩硬度) | 6 - 10 dKH | 3 - 5 dKH | 3 dKH 未満 |
硝酸はアンモニアや亜硝酸に比べれば毒性がはるかに低く、緊急対応の対象ではありません。ただし「溜まった負荷の記録」としては非常に素直な指標で、上がり続けているなら換水量が餌の量に追いついていないということです。硝酸は換水でしか下がりません。
試薬の表記にも注意が必要です。亜硝酸には NO2 として表す製品と、窒素換算の NO2-N として表す製品があり、同じ水を測っても数字は約 3.3 倍違います。アンモニアも同様に、NH4+ 表記と NH3-N 表記が混在します。銘柄を変えたときに「急に上がった」と見えるのは、単位が変わっただけということが少なくありません。
| 原因 | 典型的な状況 | 出方 |
|---|---|---|
| ろ過が立ち上がっていない | 新池、ろ材の全交換、シーズン初め | まずアンモニア、遅れて亜硝酸 |
| ろ材を水道水で洗った | 掃除の翌日から | 両方が数日で同時に立つ |
| 薬・塩によるろ過への影響 | 投薬後 2 - 5 日 | 亜硝酸が長く残りやすい |
| 餌の与えすぎ | 水温が上がった時期、増餌の直後 | じわじわ上がる |
| 死魚・大量の落ち葉 | ろ過槽の底や吸い込み口 | 局所的に急上昇 |
| 停電・ポンプ停止 | 数時間の断水でろ材が酸欠 | 通水再開後に一気に出る |
| 一度に多数の導入 | 入手直後、池の増設時 | 数日から 2 週間で |
特に多いのが「掃除をしたら調子が悪くなった」という順序です。ろ材を水道水で洗うと、残留塩素がバクテリアを殺します。洗うなら必ず池の水で、しかも一度に全部ではなく分割して行ってください。きれいにしたつもりの作業が、ろ過をゼロに戻していることがあります。
換水は薄めているだけであり、ろ過が戻るまでは何度でも上がってきます。それでも、その間の毒性を下げ続けることに意味があります。回復までの期間は水温に強く左右され、暖かい時期の数週間に対し、低水温期は倍以上かかることもあります。
アンモニアと亜硝酸の事故が厄介なのは、進行が速いのに、目で見えるサインが遅れて出ることです。停電でポンプが 4 時間止まった池は、その日のうちに数値が動きます。投薬でろ過が傷んだ池は 2 日目から立ってきます。日曜の朝に測って問題なしだった池が、水曜の夕方には危険域に入っていることは珍しくありません。次に測るのは翌週の日曜です。
さらに、pH と水温そのものが一日のうちに動きます。朝 7.4 だった pH が、夏の午後には 8.6 まで上がる池があります。同じ総アンモニアでも、遊離アンモニアの量は朝と午後で別物です。都合の良いことに、私たちが試薬を持って池に立つのはたいてい涼しい朝で、それは一日でいちばん安全な時間帯です。
つまり、点検の頻度が足りないというより、点検が「いちばん危ない瞬間」を構造的に外しているということです。ここが、定期チェックだけでは埋まらない隙間です。
直接測定しているもの:水温、pH、溶存酸素(mg/L と飽和度 %)、導電率、濁度、アンモニウム(NH4)、硝酸(NO3)。ORP はオプションです。
測定値から演算しているもの:KH(0 - 20 dKH)、NH3、亜硝酸、塩分、TDS。KH は演算値であり、滴定ではありません。GH は取り扱っておらず、表示もしません。
H2Koi は、pH と水温を同じ瞬間の同じ場所で測っているため、アンモニウムの実測値から遊離アンモニアを連続的に算出できます。産業用グレードのセンサーによる連続した早期警戒であり、異常を知らせるのが役目です。病気や寄生虫を見つける装置ではありません。センサー面はワイパーが自動で清掃し、汚れが計測に影響する前に取り除きます。
私たちはあわせて、池ごとの設計で自動換水も手がけています。同じことを行う他社のシステムを、私たちも、クライアントも、これまで見つけたことがありません。それでも、装置が事故を防ぐわけではありません。防ぐのは、異変に気づいた人が早く動けることです。装置の役目は、その「早く」を作ることに尽きます。
多いのは、ろ過がまだ立ち上がっていない、直前にろ材を水道水で洗った、投薬や塩でバクテリアが弱っている、餌の量に対してろ過容量が足りていない、のいずれかです。ろ過槽の底やスキマーの吸い込み口に死魚や落ち葉が溜まっていないかも確認してください。原因が分からないうちは、餌を止めて部分換水を続けるのが最も安全な選択です。
総アンモニアの数値だけでは決まりません。判断すべきは遊離アンモニア(NH3)で、目安は 0.02 mg/L 未満です。総アンモニア 1.0 mg/L でも、pH 7.0・15℃ なら約 0.003 mg/L で問題になりませんが、pH 8.5・28℃ なら約 0.18 mg/L で明確な危険域です。必ず pH と水温をセットで確認してください。
塩化物イオンが亜硝酸の取り込みを妨げるため、ろ過が回復するまでの保護としては有効です。目安は 0.1%(水1トンあたり約1 kg)です。ただし塩は換水以外では抜けないため、池の実容量から計算し、入れた量を必ず記録してください。塩そのものがろ過に負荷をかける面もあるので、入れたあとも数値の測定は続けます。
水温しだいです。20℃ 以上あれば数週間で亜硝酸まで処理できるようになることが多く、低水温期はその倍以上かかることもあります。立ち上げ中は餌を最小限にし、鯉の数を抑え、毎日測るのが確実です。市販のバクテリア剤は助けにはなりますが、時間を大きく短縮するものとは考えないほうが安全です。
勧められません。急な水質と水温の変化は、それ自体が鯉に強い負担をかけます。1 回あたり全水量の 1/4 から 1/3 を目安に、必要なら日を分けて繰り返してください。水温差は 2℃ 以内、そして必ずカルキ抜きした水を使います。塩素はろ過バクテリアも殺すため、中和を怠ると翌日さらに数値が上がります。
多くの魚病薬はろ過バクテリアにも作用します。投薬後 2 - 5 日で数値が立ってくるのは典型的な経過で、特に亜硝酸酸化菌のほうが回復が遅く、亜硝酸だけ長く残る傾向があります。投薬期間中とその後 1 週間ほどは、餌を減らして毎日測定してください。薬と塩を同時に使う場合は、ろ過への負荷が重なることを見込んでおく必要があります。
NO2-N は亜硝酸を窒素の重量に換算した表記、NO2 は亜硝酸イオンとしての表記です。同じ水を測っても、NO2 の数値は NO2-N のおよそ 3.3 倍になります。アンモニアにも NH4+ 表記と NH3-N 表記があります。試薬の銘柄を変えた直後に数値が跳ねたように見えるときは、まず単位を確認してください。
産業用グレードのセンサーでアンモニウムを実測し、同じ瞬間の pH と水温から遊離アンモニアを算出して、常時見張ります。数値が動きはじめたその時点で気づくための仕組みです。
H2Koi について