水質ガイド
塩は錦鯉飼育でいちばん古くから使われてきた道具であり、同時にいちばん誤用されている道具でもあります。使いどころは確かにあります。ただし「なんとなく効きそうだから」と足していく使い方は、鯉を助けるどころか静かに追い込みます。塩がなぜ効くのか、どの濃度が何のための濃度なのか、そして池に入れた塩がその後どうなるのかを整理します。
実務のうえで塩が使われる場面は、大きく三つに分かれます。目的が違えば適した濃度も期間も違うので、まずここを混ぜないことが大切です。
鯉の鰓には、生きるために必要な塩化物イオンを水中から取り込む仕組みがあります。亜硝酸イオンは形がよく似ているため、この経路にまぎれ込んで体内に入ってしまいます。水中の塩化物イオンが多ければ、亜硝酸は取り込まれにくくなります。これが「塩を入れると亜硝酸に強くなる」ことの中身です。
亜硝酸が上がるのは、池が新しいとき、薬浴のあと、ろ材を洗いすぎたあと、春先の立ち上がりで給餌を早く増やしたとき、そして夏に餌を伸ばしすぎたときです。いずれもアンモニアと亜硝酸が処理しきれていない状態で、硝化菌が追いつくまで数日から数週間かかります。
塩は亜硝酸を消しません。やっているのは「鯉が耐えられる時間を延ばすこと」だけです。同時に給餌を絞り、水換えで亜硝酸そのものを薄め、ろ過が戻るのを待つ必要があります。塩を入れて安心し、餌をそのまま与え続けるのが最悪の組み合わせです。
もうひとつ見落とされやすい点があります。硝化が進んでいる池では炭酸塩硬度(KH)が消費されており、亜硝酸が出ている時期はKHも同時に削られていることが少なくありません。KHが底をつけばpH暴落が起きます。塩を入れるときは、KHも一緒に見てください。
以下は広く定着している目安であり、絶対的な処方ではありません。魚の状態、水温、季節、これまでの投薬履歴によって適切な範囲は変わります。実際に上げる前に、かかりつけの販売店や獣医師の指導と照らし合わせてください。
| 濃度 | 1トン(1000L)あたり | 位置づけ | 期間の考え方 |
|---|---|---|---|
| 0.1% | 1kg | ごく低い常用域 | 長期でも負担は小さい |
| 0.1〜0.3% | 1〜3kg | 一般的な常用・補助。亜硝酸対策の中心 | 不調が収まるまで、数日〜数週間 |
| 0.3〜0.5% | 3〜5kg | 短期の治療域 | 指導を受け、期間を区切って |
| 0.5%超 | 5kg超 | 推奨しない | 濃度そのものが負担になる |
覚えておきたいのは、塩そのものがストレス要因でもあるということです。濃く、長く当てるほど、助けるためのものが負荷に変わります。0.5%で二日と、0.5%で二か月では、まったく別のことをしています。
投入量は池の水量で決まります。図面上の水量ではなく、ろ過槽と配管を含めた実際に入っている量です。ろ過槽が大きい池では、これを忘れると2割前後ずれます。
| 池の実水量 | 0.1%にする量 | 0.3%にする量 | 0.5%にする量 |
|---|---|---|---|
| 3トン | 3kg | 9kg | 15kg |
| 5トン | 5kg | 15kg | 25kg |
| 10トン | 10kg | 30kg | 50kg |
| 20トン | 20kg | 60kg | 100kg |
| 30トン | 30kg | 90kg | 150kg |
投入は一度にではなく、数回に分けます。バケツで先に溶かし、流れのある場所からゆっくり入れてください。底に山にして沈めると、その場所だけ極端に濃くなり、そこにいた鯉が焼けます。目標まで上げたら、必ず測って確認します。「これくらいで0.3%のはず」は、確認ではありません。
ここが本題です。塩は蒸発しません。魚も、ろ過菌も、水草も、塩を消費しません。池から塩が出ていく経路は、排水をともなう水換えと、掛け流しやオーバーフローによる希釈の二つだけです。
夏場、蒸発した分を足し水で戻す作業は日常的に行われます。このとき塩は減っていません。蒸発で濃くなった分が元に戻るだけです。ところが「水を足したのだから薄まったはずだ」と考えて、また塩を足す。この繰り返しが、想定の倍以上の濃度をつくります。
「バケツで何杯か」で足し続けない。測らずに継ぎ足していく管理では、実際の濃度は誰にも分かりません。0.3%のつもりで0.8%になっていた、という池は珍しくありません。食いが落ちる、動きが鈍る、鰓の動きが速くなる、といった症状は病気とよく似ているため、さらに塩を足すという逆方向の対処につながりがちです。原因が分からない不調のときは、まず塩分濃度を測ってください。
逆のパターンもあります。常時少量換水や掛け流しの池では、入れた塩は思ったより早く抜けます。治療濃度を維持しているつもりで、実際には二日目には効いていないということが起こります。どちらの方向にずれるかは池の構造次第なので、やはり測るしかありません。
使うのは添加物のない塩化ナトリウムです。ヨウ素添加塩、固結防止剤入りの精製塩は避けてください。原材料表示が「食塩」または「海水」のみで、添加物の記載がないものを選びます。
| 対象 | 常用域(〜0.3%)での影響 | 治療域(0.5%前後)での影響 |
|---|---|---|
| 錦鯉 | 通常は問題なし | 短期なら許容。長期は負担 |
| 硝化菌(ろ過) | 大きな支障は出にくい | 急激な変化は避ける。段階的に |
| 睡蓮・水生植物 | 種類により葉が傷むことがある | 多くが枯れる。事前に退避を |
| 溶存酸素 | 溶解度がわずかに下がる | 高水温期はエアレーションを増やす |
睡蓮や抽水植物を残したい池では、池全体に塩を回すのではなく、別容器での塩水浴を検討してください。また塩分が上がると酸素の溶けられる量はわずかに下がります。真夏の高水温期に治療濃度をかけるなら、溶存酸素の確保を先に手当てしておくべきです。
塩は水に溶けると見えなくなります。においもしません。実務で塩分を追う方法は、水の電気の通りやすさ、つまり導電率を測ることです。市販のデジタル塩分濃度計も、中身は導電率計です。
この話題でH2Koiができること。産業用グレードのセンサーで導電率を直接測定し、そこから塩分(塩分濃度)を計算値として連続的に表示します。塩を入れた瞬間の立ち上がり、水換えごとの下がり方、掛け流しでじわじわ薄まっていく傾き ―― これらが線として残るため、「今どのあたりにいるか」を推測ではなく履歴として確認できます。
できないこと。寄生虫や病気そのものは見えません。塩を入れるべきかどうかを判断することもできません。それは鯉を見ている人の仕事です。またH2Koiの塩分は、導電率の実測から求める計算値です。H2Koiができるのは、変化に早く気づくための、疲れを知らない継続的な目になることです。
塩分は、入れた直後だけを測っても意味の半分しか分かりません。問題は「その後どうなったか」だからです。
週に一度の確認では、日曜に0.3%だったものが、水曜の大量換水で0.15%まで落ち、木曜に足した分でまた0.35%に戻り、次の日曜にはまた0.3%に見える、といった動きがすべて消えます。鯉が経験しているのは平均値ではなく、この上下そのものです。治療濃度をかけている期間なら、途中で下がっていた事実は結果を左右します。
もうひとつ、塩は「入れっぱなし」になりやすい薬です。理由があって0.3%まで上げ、その理由が三週間前に解消していても、測っていなければ気づきません。連続して記録されていれば、下げるべき時期は自然に目に入ります。同じことは亜硝酸やKHにも言えます。不調は日単位ではなく時間単位で動くので、点で確かめる管理は、いちばん動いている時間帯をまたいで見逃します。
目的が終わったら惰性で維持しません。抜き方は水換えだけですが、一度に大量に換えると水温と水質が急変します。数日から一週間かけて、通常の水換えを数回重ねて段階的に下げるのが安全です。10トンの池で3割換えれば、塩分もおおよそ3割落ちる ―― この単純な計算が成り立つのが塩の扱いやすいところでもあります。
なお、当社は自動水換えシステムも一台ずつ設計して製作しています。同じことをする装置を私たちは他に見たことがなく、お客様からもそうした話は聞きません。塩を抜く工程のように「一定量を、決まった間隔で、確実に」が求められる作業では、手作業のばらつきがそのまま濃度のばらつきになります。
低い常用域なら大きな害はありませんが、推奨はしません。塩は減らないため、足し水と部分換水を繰り返すうちに実際の濃度が分からなくなります。また常に塩がある状態では、本当に必要になったときに濃度を上げる余地が狭まります。目的が終わったら水換えで抜き、必要なときに計算して入れ直すほうが管理として確実です。
自然には抜けません。蒸発もしなければ分解もされません。抜けるのは排水をともなう水換えと、掛け流しによる希釈だけです。何も排水していない池なら、半年前に入れた塩はそのまま残っています。
導電率式のデジタル塩分濃度計が実用的です。比重計は池の濃度域では読み取りが粗く、判断材料になりません。治療濃度をかけるときは、計器の校正を確認してから使ってください。H2Koiのように導電率を連続測定していれば、投入後に濃度がどう動いたかも記録として残ります。
添加物の入っていない塩化ナトリウムであれば問題ありません。避けたいのはヨウ素添加塩と固結防止剤入りの精製塩です。原材料表示を確認し、塩以外の記載がないものを選んでください。飼料店や養鯉業者が扱う袋入りの塩がいちばん確実で、量あたりでも扱いやすいです。
目的で分かれます。亜硝酸対策のように池の水そのものが問題なら、池全体に入れます。特定の一尾を治療するなら、別容器での塩水浴のほうが濃度管理も観察も容易で、水草やろ過への影響も避けられます。池全体を治療濃度まで上げるのは、水量が大きいほど後戻りが難しくなる選択です。
治療域の濃度では、多くの水生植物が傷みます。常用域でも種類によっては葉が黄変します。植栽を残したい池では、鉢ごと退避させるか、そもそも池全体に入れない方針にしてください。塩を入れてから植物の様子を見て決める、という順序では間に合いません。
まず塩の追加をやめ、正確な濃度を測ります。そのうえで、通常の水換えを数回に分けて行い、数日かけて段階的に下げます。一度に大量換水すると、濃度・水温・水質が同時に動いて鯉への負担が大きくなります。下げている間は給餌を控えめにし、エアレーションを強めておいてください。鯉に明らかな異常が出ている場合は、自己判断で進めずに販売店や獣医師に相談してください。
H2Koiは産業用グレードのセンサーで導電率を直接測定し、塩分を計算値として連続的に記録します。水温、pH、溶存酸素、濁度、アンモニウム、硝酸も同じ画面に並びます(ORPはオプション)。異常に早く気づくための、疲れを知らない継続的な目です。