水質ガイド
pHは、緩衝の余力が残っているあいだ、ほとんど動きません。前日と同じ数値が出ていても、それは安全の証明ではなく、まだ余力が残っているという意味でしかありません。KH(炭酸塩硬度)が尽きた瞬間、pHは一晩で崩れます。ここでは、その「暴落」という出来事そのものを、起きる順番どおりに追います。
KHは、水中の炭酸水素イオンと炭酸イオンの量、言い換えれば「酸を受け止める余力」です。池に酸が入っても、この余力が中和してしまうため、pHの表示はほとんど変わりません。変わらないまま、余力だけが静かに減っていきます。
そして、ある地点で受け止めきれなくなります。そこから先は、同じ量の酸が入っても行き場がありません。pHは緩やかに下がるのではなく、階段を踏み外すように落ちます。半年間 7.5前後で安定していた池が、翌朝には5台という測定値を返すことがあります。これがpH暴落です。
順序が大切です。先に減るのはKHであり、pHが動くのは最後です。
特別な事故は必要ありません。むしろ順調に回っている池ほど、酸は確実に出続けます。
| 発生源 | しくみ | 効き方 |
|---|---|---|
| 鯉の呼吸 | 排出されたCO₂が水に溶けて炭酸になる | 24時間止まらない。放養量と水温に比例 |
| 餌の残り・排泄物 | 有機物の分解で有機酸が生じる | 給餌量の増える夏に加速 |
| 落ち葉・底の堆積物 | 沈んだ有機物が分解し続ける | 秋以降、じわじわ効く |
| ろ過(硝化) | アンモニアを亜硝酸に変える段階でアルカリ度を消費する(亜硝酸→硝酸では消費しない) | ろ過が効いている池ほど確実に減る |
| 雨水・雪解け水 | KHのほとんどない水が入り、緩衝を薄める | 長雨のあとに一時的に |
見落とされやすいのは4行目です。アルカリ度を消費するのは、アンモニアを亜硝酸に変える最初の段階です(亜硝酸から硝酸への段階では消費されません)。ですから、亜硝酸で止まっているろ過槽でも緩衝は同じだけ削られます。ろ過の調子が良いことと、緩衝が減っていくことは同時に進みます。
毎朝pHを測り、半年間ずっと7.4だったとします。数字の上では申し分なく安定して見えます。しかし7.4という値は、その半年のあいだ同じことしか言っていません ― まだ緩衝が残っている、と。どれだけ残っているかは、一度も教えてくれていません。
pHは遅行指標です。動いたときには、すでに余力が尽きています。残量が見えるのはKHを測ったときだけで、pHの安定を根拠に「大丈夫」と判断することはできません。KHそのものについては 炭酸塩硬度(KH)の解説 にまとめています。
CO₂の濃度は一日のなかで大きく上下します。日中は水草や藻類が光合成でCO₂を消費するため、水中のCO₂は下がります。日が落ちると光合成は止まり、植物も藻類も呼吸だけを続けます。そこに鯉とろ過バクテリアの呼吸が上乗せされます。
結果として、CO₂は明け方の直前に最大になります。溶けたCO₂は炭酸となってpHを押し下げます。緩衝が残っていれば、この日内変動は0.2前後に収まります。残っていなければ、同じ一晩で1.5以上落ちることがあります。
だから暴落は人のいない時間帯に完了し、朝の発見は事後確認になります。グリーンウォーターやアオコの濃い池、水草の多い池ほど、夜間の振れ幅は大きくなります。
pH暴落そのものは目に見えません。見えるのは、魚がすでに影響を受けたあとの様子です。この魚側の反応を pHショック と呼びます。原因の名前ではなく、症状の名前です。
pH暴落は、放置された時間の長さがそのまま被害になります。夕方は普段どおりだった池で、翌朝に複数尾を失う ― この事故はそういうかたちで起きます。鼻上げを見た時点では、原因究明よりも先に、KHとpHの測定とエアレーションの強化を行ってください。
| 池の水量 | 1 dKH上げる重曹の量 | 1日の上限(1〜2 dKH) |
|---|---|---|
| 1 t(1,000 L) | 約30 g | 30〜60 g |
| 5 t | 約150 g | 150〜300 g |
| 10 t | 約300 g | 300〜600 g |
| 20 t | 約600 g | 600 g〜1.2 kg |
| 50 t | 約1.5 kg | 1.5〜3 kg |
目安は水100 Lあたり約3 gで、KHがおよそ1 dKH(約18 mg/L)上がります。粉のまま撒くと、その一角だけが極端なpHになり、そこにいた鯉が被害を受けます。溶かしてから入れる、という一手間を省かないでください。
pHアップ剤などでpHの数値だけを戻すと、原因である緩衝の枯渇は残ったまま、魚は急激なpHの振れにさらされます。落ちたときと同じ速さで戻すことは、二度目の衝撃を与えるのと変わりません。しかも緩衝のない水では、翌晩また同じところまで落ちます。戻すのはpHではなくKHで、時間をかけます。
ここに挙げた量は、錦鯉の飼育で広く使われている経験則です。出発点としては妥当な数字ですが、どの池にもそのまま当てはまる処方ではありません。池の水量はたいてい実測ではなく概算ですし、水道水か井戸水かという水源の違い、もともと残っている緩衝力、水中の二酸化炭素、鯉の数と給餌量、ろ過の効き具合によって、同じ量を入れても結果は変わります。
ご自分の池の水量から計算し、思っているより少なめから始め、測ってから足してください。一度に狙いの値まで動かすより、小刻みに合わせるほうが安全です。すでに魚に異常が出ている池、状態を崩している池では、独断で水質を動かさず、錦鯉に詳しい専門店や獣医師にご相談ください。
目標は 105〜180 mg/L(6〜10 dKH)。この範囲にあれば、一晩分のCO₂の増加で池が動くことはありません。
| KH(mg/L) | dKH | 池の状態 |
|---|---|---|
| 0〜35 | 0〜2 | 緩衝がほぼない。いつ落ちてもおかしくない |
| 36〜70 | 2〜4 | 余力が乏しい。補充を前提に扱う |
| 71〜104 | 4〜5 | 下降傾向なら早めに補う |
| 105〜180 | 6〜10 | 錦鯉の池で狙う範囲 |
| 180超 | 10超 | 支障は少ないが、pHが上がりすぎていないか併せて確認 |
あわせて、ろ過槽に炭酸塩の予備を置いておくこと。牡蠣殻やサンゴ砂、炭酸カルシウム系のろ材を流れのある場所に入れておくと、酸が増えたときにゆっくり溶けて消費分をいくらか補います。自動的に一定に保つものではありませんが、下がり方を確実に鈍らせます。
古い池が典型例です。何年も問題なく回ってきた池ほど、開設時の緩衝を一度も補充していないことがあります。減り方は年単位で緩やかなので、途中で気づく機会がありません。そしてある年の秋、落ち葉と水温低下が重なった夜に、それまでと同じ7.6が突然崩れます。KHの管理は、水質項目のなかで最も地味で、最も効きます。
定期的な換水は、水源のKHが十分であれば緩衝の補充になります(井戸水や軟水域の水道水はKHが低いことがあるため、水源そのものも一度測っておいてください)。当社では受注生産で自動換水の仕組みも製作しています。錦鯉の池でここまで行っている例を、私たちは他に見つけたことがありません。
週に一度の検査は、緩衝が残っているあいだ「異常なし」を返し続けます。返ってくるのはその瞬間の値だけで、減っていく速さは分かりません。同じ4 dKHでも、半年かけて4になった池と、2週間で8から4になった池では、残された時間がまったく違います。単発の測定はその差を区別できません。
そして暴落は夜間に数時間で終わります。翌朝の検査は、起きたことの確認にはなりますが、間に合ってはいません。必要なのは値そのものよりも、傾きです。
すること:産業用グレードのセンサーで池の水質を継続的に測り、傾きが悪い方向に向かったときに早期警告を出します。KHは0〜20 dKHの範囲で算出値として表示します。夜間のpHの振れ幅も、そのまま記録に残ります。
しないこと:滴定による分析ではありません。GHは扱いません。病気や寄生虫の判定もしません。そして、何かを防ぐ装置でもありません。気づくまでの時間を前に倒すだけです。
ほとんどの場合、KH(炭酸塩硬度)が尽きたためです。酸は毎日出続けており、KHがあるあいだはそれを中和してpHの数値を動かしません。中和しきれなくなった時点で、それまで吸収されていた分が一度に表に出ます。原因はその日に何かをしたことではなく、何か月もかけて減っていた緩衝です。まずpHではなくKHを測ってください。
105〜180 mg/L(6〜10 dKH)を目安にしてください。この範囲であれば、一晩分のCO₂の増加ではpHはほとんど動きません。90 mg/L(5 dKH)を下回ると緩衝が薄く、一晩でpHが動きはじめるため、補充の対象です。35 mg/L(2 dKH)以下は、いつ暴落してもおかしくない水準です。
食品用の重曹(炭酸水素ナトリウム)で構いません。目安は水100 Lあたり約3 gで、KHがおよそ1 dKH(約18 mg/L)上がります。10トンの池なら約300 gで1 dKHです。必ずバケツの水に完全に溶かしてから、水流のあるところへ回し入れてください。1日1〜2 dKHを超えないこと、段階ごとに測り直すことが条件です。
暴落時にはおすすめできません。pHの数値だけを押し上げても、緩衝が空であることは変わらず、翌晩また同じところまで落ちます。加えて、落ちたときと同じ速さで戻すことは、魚にとって二度目の急変です。戻すべきはpHではなくKHで、重曹をゆっくり効かせるほうが結果的に早く落ち着きます。
別のものです。pH暴落は池の水に起きる出来事(緩衝が尽きてpHが崩れること)、pHショックは魚の側に出る反応(鼻上げ、動かない、縮鰭など)です。暴落からショックが見えるまでには時間差があり、しかもショックが見えた時点で水質はすでにかなり悪化しています。魚を見てから判断しようとすると、必ず遅れます。
水源のKHが十分であれば戻ります。ただし井戸水や軟水域の水道水はKHが低いことがあり、その場合は換水しても緩衝は増えません。まず水源の水そのものを測ってみてください。低ければ、換水と重曹、あるいはろ過槽の炭酸塩ろ材を組み合わせる必要があります。
測っていたのがpHだけだった可能性があります。pHは緩衝が残っているあいだ動かないので、毎週同じ値が出ていても、それは減っていないという意味ではありません。KHを測っていた場合でも、週1回では減り方の速さまでは読めません。同じ4 dKHでも、半年かけて4になった池と、2週間で8から4になった池では、残された時間がまったく違います。
pH暴落は、起きたあとに読み取れる出来事ではありません。KHの減り方と夜間のpHの振れを続けて見ていれば、余力が尽きる前に気づけます。H2Koiは、その気づきを早めるための継続的な観測です。
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