錦鯉の水質ガイド
昨日まで餌を食べていた鯉が、朝、底に沈んでいる。体表に傷はなく、白い斑もなく、他の鯉は普通に泳いでいる。この死に方の多くは、前の晩の水の中で説明がつきます。そして厄介なことに、その原因のほとんどは日が昇るころには収まっていて、朝に測った数値は正常に見えます。ここでは起こりやすい順に、何が起きていたのか、何を測れば見えたのかを整理します。水が原因ではない場合についても、隠さずに書きます。
原因の特定は後回しで構いません。先に手を動かす順番だけ決めておいてください。
飼育者が「原因不明」と感じる突然死のうち、水質が関与しているものは、実際にはこの五つにほぼ収まります。共通しているのは、どれも数値として測れるということです。
| 原因 | 起きやすいとき | 測れば見えるもの |
|---|---|---|
| 夜間の酸欠 | 熱帯夜、水草や藻が繁茂した池、鯉を増やした直後、曇天が続いたあと、ポンプの一時停止 | 溶存酸素(mg/L)が深夜から明け方にかけて低下 |
| pH暴落 | 新水の補給が少ない池で数か月、雨が続いたあと、KHを一度も測っていない池 | KH(dKH)の低下、続いてpHの急落 |
| アンモニア・亜硝酸のスパイク | 濾過槽の掃除、鯉の追加、薬浴のあと、餌の与えすぎ、高水温期 | アンモニア/亜硝酸(mg/L)の上昇 |
| 水温の急変 | 大量換水、井戸水の投入、浅い池の日射、季節の変わり目 | 水温(℃)の変化幅 |
| 雷雨・大雨のあと | 夕立、ゲリラ豪雨、梅雨末期、台風 | pH・KH・溶存酸素が同時に動く |
日が沈むと、水草も藻も光合成をやめ、鯉と同じ側にまわって酸素を消費します。濾過槽のバクテリアも、池底の汚泥も、一晩中酸素を使い続けます。供給が止まり、消費だけが続く数時間が、明け方の直前です。
そこに水温が重なります。水が抱えられる酸素の量は、水温が上がるほど減ります。一方で鯉の代謝は水温とともに上がり、必要な酸素は増えます。夏の夜は、この二つが逆方向に振れます。
| 水温(℃) | 飽和溶存酸素の目安(mg/L) | 池での余裕 |
|---|---|---|
| 5 | 12.8 | 十分 |
| 15 | 10.1 | 通常は問題にならない |
| 20 | 9.1 | 夜間の下がり方を意識し始める水温 |
| 25 | 8.3 | 曝気を増やしておきたい |
| 28 | 7.9 | 明け方に3〜4 mg/Lまで落ちることがある |
| 30 | 7.6 | 熱帯夜がもっとも危険 |
この表は理論上の上限です。実際の池がこの値に届くことはまずありません。夜はここから消費の分だけ下がっていきます。鯉が余裕をもって過ごせるのはおおむね6 mg/L以上、5 mg/Lを切ると負担がかかり、3 mg/L前後で鼻上げが始まります。大きく育った鯉、体高のある鯉から先に影響を受けます。同じ池で一番よい鯉が最初に落ちるのは、そのためです。
そして最大の問題は、日が昇れば回復するということです。光合成が再開し、水面の交換も進み、朝の10時に測れば数値は正常に戻っています。前の晩に起きた谷は、記録がなければどこにも残りません。
KH(炭酸塩硬度)は、水がpHの変化に抵抗する力、つまり緩衝力の指標です。硝化は酸を出し続ける反応なので、濾過が働いている池ではKHが毎日少しずつ削られていきます。新水の補給が少ない池、雨水の割合が高い池では、数週間から数か月かけて静かに減っていきます。
KHが残っているあいだ、pHはほとんど動きません。ここが落とし穴です。pHだけを見ている飼育者には、暴落の前日まで水は「安定している」ように見えます。そして緩衝力を使い切った瞬間、pHは下がるのではなく、落ちます。一晩でpH 7.5から5台まで行くことがあります。これがpH暴落です。魚の側に現れる急激な衰弱や突然死はpHショックと呼ばれますが、原因側で起きている出来事は暴落のほうです。
目安として、錦鯉の池では6〜10 dKH(炭酸カルシウム換算でおよそ105〜180 mg/L)を保ちます。5 dKHを下回ると一日のうちにpHが動きはじめ、3 dKHを下回れば危険域です。測り方、目標値、上げ方の手順は炭酸塩硬度(KH)のページで詳しく扱っています。
重曹などで補正する場合も、1日あたり1 dKH程度にとどめ、数日かけて戻します。低いKHより、急に動くKHのほうが危険です。とくに、池にアンモニアが残っている状態でpHを急に上げると、遊離アンモニアの毒性が一気に強まります。先にアンモニアを下げてから、KHに手をつけてください。
ここに挙げた量は、錦鯉の飼育で広く使われている経験則です。出発点としては妥当な数字ですが、どの池にもそのまま当てはまる処方ではありません。池の水量はたいてい実測ではなく概算ですし、水道水か井戸水かという水源の違い、もともと残っている緩衝力、水中の二酸化炭素、鯉の数と給餌量、ろ過の効き具合によって、同じ量を入れても結果は変わります。
ご自分の池の水量から計算し、思っているより少なめから始め、測ってから足してください。一度に狙いの値まで動かすより、小刻みに合わせるほうが安全です。すでに魚に異常が出ている池、状態を崩している池では、独断で水質を動かさず、錦鯉に詳しい専門店や獣医師にご相談ください。
硝化菌は、いなくなるときは静かにいなくなります。次のような場面のあと、3〜10日ほどかけて数値が立ち上がります。
アンモニアの毒性はpHと水温が高いほど強まります。同じ0.5 mg/Lでも、pH 6.8の朝とpH 8.4の夏の午後では、鯉にかかる負担がまったく違います。亜硝酸は鰓の酸素運搬を阻害するため、酸欠と重なると被害が跳ね上がります。夏の夜に濾過が崩れると、この二つが同時に来ます。
| 項目 | 望ましい範囲 | 注意が必要な値 |
|---|---|---|
| 溶存酸素 | 6 mg/L以上 | 5 mg/L未満で負担、3 mg/L前後で鼻上げ |
| アンモニア(総量) | 検出されないこと | 0.25 mg/L以上。pHと水温が高いほど危険 |
| 亜硝酸 | 検出されないこと | 0.2 mg/L以上 |
| pH | 7.0〜8.5、一日の変動0.5以内 | 6.5未満、または一晩での急落 |
| KH | 6〜10 dKH | 5 dKH未満で不安定、3 dKH未満は危険域 |
| 水温 | 一日の変化2〜3℃以内 | 換水時の温度差2℃超 |
水温は、それ自体で鯉を殺すより、免疫を落として数日後に病気として現れることのほうが多い項目です。それでも、大量換水で一気に3℃、4℃と動かせば、その晩に落ちることはあります。新水を入れるときは温度差2℃以内を目安にしてください。浅い池と、日射を遮るものがない池は、夏場の日中だけで数℃動きます。
大雨のあとに鯉を落とす飼育者が多いのは、雨が三つのことを同時にするからです。雨水はほとんど緩衝力を持たない軟水で、しかもわずかに酸性です。これがKHを薄め、pHを押し下げます。強い雨は池底の汚泥を巻き上げ、そこに溜まっていた有機物が一気に酸素を消費します。そのうえ雨の日は日照がなく、光合成による酸素供給も落ちています。
危ないのは落雷そのものではなく、雨が上がったあとの数時間から翌朝までです。夕立の翌朝に浮いている、という話が多いのはこのためです。大雨が予想されるときは、前もって曝気を増やし、オーバーフローが詰まっていないか確認し、雨が上がったらKHとpHを測ってください。
突然死のすべてが水質ではありません。次のどれもが、外見上ほとんど同じ形で現れます。
H2Koiはこれらを一切検知しません。水質センサーは水を測るものであって、鰓や鱗や寄生虫を見るものではありません。鯉そのものに異常の疑いがあるときは、数値ではなく魚を見てください。
とくに、短期間に複数が落ちる、水温18〜25℃前後である、鰓が白濁または欠損している、眼が落ち込んでいる、といった条件が重なる場合はコイヘルペスウイルス病を疑います。自己判断で治療せず、購入した錦鯉店または獣医師に相談してください。大量死のときは、都道府県の水産担当部局にも連絡してください。
試薬による検査が間違っているわけではありません。問題は測る間隔のほうにあります。ここまで挙げた原因は、どれも夜から明け方に山を越えます。人が試薬を出すのは、たいてい日中で、時間のある日で、思い出したときです。
つまり、サンプリングの間隔が現象より粗いということです。連続した記録があれば、朝に見る数値が「今どうか」だけでなく「昨夜どこまで落ちたか」を語り始めます。突然死のあとで原因を推測するのと、下がり始めた時点で気づくのとの差は、ここにあります。
行うこと。産業用グレードのセンサーで水温、溶存酸素、pH、電気伝導率、濁度、アンモニウム(NH4)、硝酸(NO3)を直接測定し、そこからKH(0〜20 dKH)、NH3、亜硝酸、塩分、TDSを算出して、値が動いたときに知らせます。ORPはオプションです。夜間の落ち込みや、数週間かけてじわじわ下がっていく傾向は、この形でしか見えません。
行わないこと。滴定による測定ではありません。GHは扱いません。病気、寄生虫、外敵、外傷は検知しません。そして、何かを防ぐ装置でもありません。H2Koiができるのは早期の警告までで、判断と処置は飼い主の側にあります。
H2Koiでは、池ごとに設計する自動換水も手がけています。錦鯉の池でこれを行っているシステムを、私たちはこれまで他に見つけたことがありません。新水の補給がKHと水質の安定に直結する池では、検討する価値があります。
まず前夜の条件を思い出してください。暑い夜だったか、雨が降ったか、直前に濾過槽を洗ったか、鯉を追加したか、餌を増やしたか。そのうえで溶存酸素、アンモニア、亜硝酸、pH、KHを測ります。ただし日中の測定では夜間の谷は見えません。数値がすべて正常でも水質が原因でなかったとは言い切れないので、翌朝の日の出前にもう一度測ると、はるかに多くのことがわかります。
もっとも多い原因は酸欠ですが、それだけではありません。鰓が寄生虫や細菌でやられている、亜硝酸で酸素運搬が阻害されている、アンモニアで鰓が傷んでいる場合も、鯉は同じように水面で口を使います。つまり鼻上げは「酸素が足りていない」というサインであって、「水に酸素がない」というサインとは限りません。まず曝気を増やし、同時に亜硝酸とアンモニアを測ってください。
数値の異常が確認できている場合、まずは20〜30%程度を、カルキ抜きした水で、水温差2℃以内で行います。改善が足りなければ翌日にもう一度。一度に大きく換えたい気持ちになりますが、生き残っている鯉にとっては急激な変化のほうが負担です。異常が確認できていないうちは、換水よりも曝気と絶食を優先してください。
雨水は緩衝力をほとんど持たない軟水で、わずかに酸性です。これが池のKHを薄めてpHを押し下げます。同時に、強い雨が池底の汚泥を巻き上げ、そこに溜まっていた有機物が酸素を消費します。日照がないので光合成による酸素供給も落ちています。pHと溶存酸素が同じ方向に動くため、単独ではしのげたはずの条件が重なります。雨が上がったあとの数時間から翌朝までがもっとも危険です。
pHではなくKHを見ることです。KHが十分にあるうちはpHは動かず、KHが尽きた瞬間に一気に落ちます。したがってpHの記録だけでは前兆がつかめません。6〜10 dKHを維持し、5 dKHを下回ったら補正します(3 dKH未満は危険域)。補正は1日あたり1 dKH程度まで。定期的な新水の補給も、KHを戻す方法として確実です。詳しくは炭酸塩硬度(KH)のページをご覧ください。
十分にあり得ます。濾材を一度に洗ったり入れ替えたりすると、硝化菌の大半が失われ、48〜72時間ほどでアンモニアと亜硝酸が立ち上がります。夏場ならそこに酸欠が重なります。次回からは濾材を分割し、一度に洗うのは3分の1までにして、洗浄には池の水を使ってください。今回の対応としては、絶食、曝気、部分換水を続けながら、アンモニアと亜硝酸が検出されなくなるまで毎日測ります。
わかりません。H2Koiは水を測る機器であり、病気、寄生虫、外傷は検知しません。KHVが疑われる状況 ― 水温18〜25℃前後、短期間に複数が死ぬ、鰓の白濁や欠損、眼の落ち込み ― では、自己判断で薬を使わず、購入した錦鯉店または獣医師に相談してください。大量死の場合は、都道府県の水産担当部局への連絡もお願いします。