飼育ガイド ― 水質管理
ろ過槽をどれだけ立派に組んでも、硝酸塩と溶存有機物は池の外へ出ていきません。出す手段は、水そのものを入れ替えることだけです。ここでは、週にどのくらい替えるか、季節でどう変えるか、そして水換えそのものが事故になる場面をまとめます。
生物ろ過が担うのは、アンモニアを亜硝酸に、亜硝酸を硝酸塩に変えるところまでです。硝酸塩はそこで止まり、蓄積していきます。同時に、餌の残りや排泄物に由来する溶存有機物も溜まり続けます。沈殿槽やドラムフィルターが取るのは目に見える固形分で、水に溶けたものは池の中に残ったままです。
硝化は酸を出す反応でもあります。硝化が進むほどKH(炭酸塩硬度)は消費され、pHを支える緩衝能がじりじり削られていきます。補充する水が池水より硬ければ、水換えはこの緩衝能を戻す作業になります。KHが薄くなった池は、ある日を境にpHが一気に落ちる、いわゆるpH暴落を起こしやすくなります。KHの考え方は炭酸塩硬度(KH)の解説にまとめてあります。
もう一つ、過密気味の池で無視できないのが成長抑制物質です。鯉自身が出す物質が水に溜まると、若鯉の伸びが止まります。これも水でしか抜けません。「餌を落としていないのに大きくならない」池では、まず換水量を疑うのが順序です。
月に一度まとめて半分を替えるより、週に1〜2割を淡々と続けるほうが安定します。理由は単純で、一回あたりの水質の振れ幅が小さいからです。鯉が嫌うのは絶対値そのものより、短時間での変化です。
量は飼育密度と給餌量に比例して考えます。日に何度も餌を落とす夏場と、餌止めしている冬とでは、必要な換水量がまったく違います。「週に何割」を固定値として覚えるのではなく、餌の量に合わせて動かす数字として扱ってください。
| 水温 | 給餌の状態 | 換水の目安 | 気をつける点 |
|---|---|---|---|
| 25℃以上 | 一日数回、しっかり与える | 週1〜2割。二回に分けるか、毎日の少量注水 | 溶存酸素が下がりやすい時期。夜間の落ち込みに注意 |
| 18〜25℃ | 通常の給餌 | 週1〜2割が基本 | もっとも管理しやすい水温帯。ここで習慣をつくる |
| 10〜18℃ | 回数と量を絞る | 隔週〜週1回、1割程度 | ろ過の働きも落ちる。餌を減らしたら換水も減らす |
| 10℃未満 | 餌止め、低活性 | 大幅に減らす。水温差の小さい補充にとどめる | 底の水を動かさない。冷水を大量に入れない |
青水(グリーンウォーター)で維持している池では、換水のたびに植物プランクトンも薄まります。色を残したいなら、一度に替える割合を下げて回数を増やすほうが結果的に安定します。透明にしたい池なら、換水と紫外線処理を組み合わせます。どちらにしても、硝酸塩を抜く役目は換水が担っている点は変わりません。
「1割」と言われてもピンと来ないので、トン数から実量に直しておきます。右端は、同じ量を一日かけて連続で入れる場合の流量です。点滴換水や掛け流しを組むときの目安になります。
| 池の容量 | 1割(10%) | 2割(20%) | 日量1割を連続注水した場合 |
|---|---|---|---|
| 3 t | 300 L | 600 L | 約 0.2 L/分 |
| 5 t | 500 L | 1,000 L | 約 0.35 L/分 |
| 10 t | 1,000 L | 2,000 L | 約 0.7 L/分 |
| 20 t | 2,000 L | 4,000 L | 約 1.4 L/分 |
| 50 t | 5,000 L | 10,000 L | 約 3.5 L/分 |
見落とされがちなのが、入れる側の水質です。日本の水道水は地域差が大きく、KHの低い地域では、水換えのたびに池の緩衝能を薄めていることになります。硝酸塩を抜くつもりで、pHを不安定にする側に手を貸してしまう。これが「まじめに換水しているのにpHが落ちる」池の典型的な中身です。
井戸水も同じで、汲みたては二酸化炭素を多く含み、溶存酸素が低く、pHが実際より低く出ることがあります。曝気してから使うと値が変わります。まず一度、補充水そのものを測ってください。
| 確認する項目 | 何を見るか | 見落とすと起きること |
|---|---|---|
| KH | 池水より高いか低いか | 低ければ換水のたびに緩衝能が薄まり、pHが不安定になる |
| pH | 池水との差。井戸水は曝気後に測る | 差が大きいまま大量に入れると急変の原因になる |
| 塩素・クロラミン | 中和できているか | 鯉の鰓を傷め、ろ過バクテリアも死ぬ |
| 水温 | 池水との差 | 冷水の大量投入で鯉が底に沈み、免疫が落ちる |
| 溶存酸素 | 井戸水は特に低いことがある | 注水直後に酸素の薄い水が底に溜まる |
塩素とクロラミンは致命的です。水道水をそのまま池へ落とすことは避けてください。塩素は鰓上皮を直接傷めるだけでなく、ろ過材に定着した硝化菌を殺します。ろ過が飛べば、数日後にアンモニアと亜硝酸が立ち上がり、水換えをした池のほうが悪くなります。さらにクロラミン(塩素とアンモニアの結合体)は曝気だけでは抜けません。チオ硫酸ナトリウム系の中和剤を、注水と同時か上流側で確実に効かせる必要があります。
数値を「直す」ための大量換水はしないこと。硝酸塩が高い、pHが低い、そうした測定値を見て一気に半分以上を入れ替えたくなりますが、急激な変化そのものが強いストレッサーです。pH、KH、水温、塩分がまとめて動き、鯉は数値が改善したことより変化の速さに反応します。悪い数値は、数日から数週にわたる小刻みな換水で戻すのが安全です。あわせて、補充水と池水の温度差は手で触れて分かるほど開けないでください。差が大きい日は、量を減らすか、時間をかけて入れます。
ここは用語を分けておく価値があります。差し水は蒸発分を補うだけの足し水で、厳密には水換えではありません。蒸発では水だけが飛び、塩分・硬度・硝酸塩は池に残って濃縮します。差し水を続けている池は、水位は保たれていても中身は濃くなり続けています。
点滴換水や掛け流しは、少量を連続で入れ、オーバーフローから同量を捨てる方式です。前掲の表の右端がその流量にあたります。一回あたりの変化がほぼゼロになるため、水質の振れは最小になります。良質な井戸水があるなら現実的な選択で、水道水で行う場合は中和を連続的に効かせる仕組みが前提になります。
試薬キットや滴定は、測った瞬間の一点を教えてくれます。問題は、池の値がもっとも動く時間帯に人が測っていないことです。
pHは日内で振れます。日中に光合成でCO2が消費されて上がり、夜間から明け方にかけて下がる。KHが痩せた池でpH暴落が進むのはたいてい夜間で、朝に測ったときには底を過ぎて戻りかけていることがあります。溶存酸素も同じで、最低値は夜明け前です。真夏の午後に測って「問題なし」と判断した池が、翌朝の四時に危険域を通っていた、ということが起こります。
水換え直後も同様です。注水中の数十分から数時間に何が起きたかは、翌日の一点測定には残りません。手動の点検が悪いのではなく、点検の間隔と、水質が動く時間スケールが噛み合っていないだけです。
H2Koiがすること。産業用グレードのセンサーで、水温、pH、溶存酸素(mg/L および飽和度%)、導電率、濁度、アンモニウム(NH4)、硝酸塩(NO3)を連続して直接測定します。ORPはオプションです。そこからKH(0〜20 dKH)、NH3、亜硝酸、塩分、TDSを演算して表示します。センサー面はセルフクリーニングのワイパーが清浄に保ちます。狙いは、値が動き始めた段階で気づく手がかりを出すことです。
H2Koiがしないこと。KHは滴定ではなく演算値です。GHは表示しません。病気や寄生虫の検出はできません。そして、何かを防ぐものではありません。気づくのが早くなるだけです。
このページで説明した換水の手順は、H2Koiが自動化している作業そのものです。排水と給水は、独立した下限と上限の水位マークに挟まれています。下限より下へは抜けず、上限より上へは入らないため、池が空になることも、溢れることもありません。給水は、上流であらかじめカルキを抜いた供給水からのみ行います。
自動換水は個々の池に合わせて組む部分が大きく、標準品として棚に並ぶものではありません。錦鯉の池でこれを行うシステムを、私たちはこれまで他に見つけたことがなく、お客様から聞いたこともありません。だからといって存在しないとは言えませんが、少なくとも私たちの範囲では見当たらない、というのが正確なところです。
週に全体の1〜2割(10〜20%)が基本です。ただし固定値ではなく、飼育密度と給餌量、季節に合わせて動かします。餌をよく食べる夏場は多めに、餌止めしている冬は大幅に減らします。まとめて替えるより、少量をこまめに続けるほうが水質は安定します。
pH、KH、水温、塩分が同時に大きく動くためです。鯉は数値の絶対値より、変化の速さに反応します。硝酸塩が高いなどの悪い測定値を一気に直そうとして大量換水すると、改善分より急変によるストレスのほうが上回ることがあります。数日から数週に分けて小刻みに戻してください。
チオ硫酸ナトリウム(ハイポ)系の中和剤で塩素は中和できます。量は製品ごとに指定が異なるため、必ず使用する製品の表示に従ってください。注意すべきはクロラミンで、これは曝気や汲み置きでは抜けず、クロラミンに対応した中和剤が必要です。お住まいの地域の水道がクロラミン処理かどうかは、水道事業者の水質情報で確認できます。
量を大きく減らします。水温が下がると鯉の活性も代謝も落ち、餌止めをすれば汚れの発生自体が減ります。ろ過バクテリアの働きも鈍るため、蓄積のペースが遅くなります。この時期に冷たい水を大量に入れるのは避け、必要な場合も水温差の小さい補充にとどめ、底の水を動かさないようにしてください。
掛け流しは連続的な水換えそのものなので、別途の換水は不要です。ただし補充水の質は必ず確認してください。汲みたての井戸水は二酸化炭素が多く溶存酸素が低いことがあり、曝気してから入れるとpHも酸素も変わります。井戸水のKHが低い地域では、掛け流しが池の緩衝能を薄め続ける方向に働くこともあります。
可能性が高いのは三つです。補充水の塩素・クロラミンが抜けきっていない、池水との水温差が大きすぎた、そして一度の換水量が多すぎた。いずれも数値ではなく変化の急さが効いています。次回から量を半分にし、注水速度を落とし、中和が確実に効いているかを確認してください。症状が続く場合は、水質の実測と並行して獣医師や専門店に相談してください。
補充水のKHが池水より低いと、換水のたびに緩衝能が薄まります。硝化は酸を出し続けるので、KHが尽きた池ではpHが一気に落ちます。まず水道水や井戸水そのもののKHを測ってください。池より低ければ、換水だけでは緩衝能は戻らず、別途の補正が必要になります。詳しくはpH暴落とKH(炭酸塩硬度)のページを参照してください。
H2Koiは産業用グレードのセンサーで、水温・pH・溶存酸素・導電率・濁度・アンモニウム・硝酸塩を連続して測り、KHや亜硝酸を演算して示します(ORPはオプション)。池の値がもっとも動く時間帯を、記録として残すための道具です。
H2Koiについて